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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)374号 判決 1969年8月30日

控訴人

永田恒子

外一名

代理人

大林清春

外二名

被控訴人

小杉武雄

代理人

馬場秀郎

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係<省略>

理由

一、原判決添付目録記載の土地(但し、その後所在地の表示が柿の木坂一丁目一〇六番三と変更された。以下、本件土地という)がもと被控訴人らの前主小杉金太郎の所有であつたが同人の死亡により被控訴人らがこれを相続し共有するに至つた事実及びその地上に控訴人恒子名義の原判決添付目録記載の建物(但し、その後所在地の表示が柿の木坂一丁目一〇六番地一と変更された。以下本件建物という)が存在し、控訴人らが共同使用して本件土地を占有している事実は当事者間に争いがない。しかして、<証拠>に弁論の全趣旨を斟酌すれば、本件建物は控訴人ら相談の上建築したものであり登記簿上の所有名義を控訴人恒子にしたのも控訴人らが話合の上でなしたものである事実が認められる。

二、被控訴人らが昭和三三年一〇月三〇日福西潤との間に本件土地を否む一九五坪八合二勺の土地を同人に売渡す旨契約した事実は当事者間に争いがないが、<証拠>によれば、被控訴人らと福西との右売買契約には被控訴人主張の趣旨の所有権留保約款が付せられているのみならず、被控訴人が福西に対し昭和三四年九月三日到達の書面をもつて、七日の期間を付した催告並びに条件付契約解除の意思表示をした事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被控訴人は福西に対し、同月一〇日到達の書面をもつて右催告期間を同月一九日まで延長した事実が認められるので福西が延長された催告期間内に残代金を支払つた事実の主張立証がない本件においては右売買契約は同月一九日の経過とともに解除されたものといわなければならず、いずれにしても被控訴人は本件土地の所有権を失わなかつたものというべきである。

控訴人らは右契約解除の意思表示は仮装行為であると主張するけれども右主張事実を肯認させる的確な資料はない。なお、被控訴人と福西とが話合の上で当初定めた代金支払期限を約半年も短縮した事実は当事者間に争いのないところであるが、<証拠>によれば、それは被控訴人主張のように控訴人らが本件土地上に被控訴人に無断で本件建物を建築し、しかも、建築確認に関する地主の承諾書が被控訴人の印鑑を偽造して作成されたことを怒り、福西の無責任を責めてなしたものである事実が認められるので、被控訴人の売買契約解除の意思表示が仮装行為であることを裏付ける資料となるものでない。

三、次に控訴人守が尚旦から本件土地の賃借権を譲受けた事実の有無について検討する。<証拠>を綜合すれば、昭和三三年一〇月頃、福西は被控訴人と一九五坪八合二勺の土地売買の交渉を進めている際偶々控訴人らが適当な宅地を物色している事実を知つたので妻敦子も交えて控訴人らと話合つた結果、同月末頃福西潤と控訴人守との間に福西潤は控訴人守に対し被控訴人から買受けるべき土地のうち本件土地部分を坪当り二万円で売渡すこととする。代金支払方法は後日協議して定める。控訴人守は福西が被控訴人に支払うべき代金の資金をできる限り調達することとする等の内容の合意の成立をみ、覚書を取交したがその際、福西は尚旦の代理人として(代理権を有していたかどうかの点は暫くおく)控訴人守に対し、尚旦の有する本件土地の賃借権をも代金坪当り一万円の場合で売渡すべきことを約し、その手付金五万円を受領した。そして、同控訴人は昭和三四年二月一八日右賃借権譲渡代金額九八万二三〇〇円を福西に支払つて本件土地の所有権及び賃借権譲渡に関する契約書を作成取交した事実が認められる。<証拠判断省略>。そこで、被控訴人が右賃借権の譲渡について承諾をした事実の有無を検討するに、控訴人らは、控訴人らが本件建物を建築して占有使用している事実を知りながら異議を述べなかつた事情から、被控訴人は暗黙の承諾をしたものと推定すべきであると主張するけれども、控訴人主張の事情のみから暗黙の承諾と推定することができないことはいうまでもない。殊に本件においては前段認定のように、被控訴人は、控訴人らが被控訴人らの所有に属する本件土地上に被控訴人らに無断で本件建物を建築したことを怒り、福西の責任を追及しているのであるから尚更である。控訴人らのこの点の主張は排斥を免れない。

四、次に、控訴人らの本件建物の買取請求権の主張について検討するに、本件建物を建築したのが控訴人らであることに争いがないので控訴人守が買取請求権を有しないことはいうまでもない。

なお、控訴人らは、被控訴人が福西に対して本件土地を含む土地を同人に売渡すことを約した事実と、右売買契約締結の際所有権移転前でも右土地上に尚旦名義で建物を建築することを許容した事実とを捉えて該事実は本件建物買取請求権の発生原因に該当すると主張するけれどもかかる主張は借地法第一〇条の明文を無視する見解で到底採用できない。

五、以上説示のとおり控訴人らの主張はすべて排斥を免れず、他に本件土地占有の正権原に関する主張立証がないので控訴人恒子は本件建物を収去し、同守はこれより退去してそれぞれ本件土地を被控訴人に明渡す義務あるものというべきである。なお、本件建物は実質上控訴人守の所有で同恒子は名義上の所有者に過ぎないことは被控訴人の認めるところであるけれども、苟も建物の実質上の所有者の意を受け登記簿上の所有名義を自己とした以上、その所有権が自己にないことを理由としてその収去義務を免れることはできないものと解すべきであるから、同控訴人は本件土地明渡の方法として本件建物を収去する義務を負つているものというべきである。

六、されば被控訴人の本訴請求は正当であるから、これを認容した原判決は結局相当というべく、本件控訴は理由がない。

よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。(長谷部茂吉 石田実 麻上正信)

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